《もしも原子が見えたなら》

雑学note

Q&A

知らなくてもいいこと集


丸山秀一

1995.10.14札幌仮説サークルにて発表
小改訂ホームページ版 99.4.27
小改訂 99.5.8 99.5.14

授業書の内容がわからない

 《もしも原子が見えたなら》は,僕の大好きな授業書の一つです。でも,授業をしていると,生徒さんから質問がたくさん出ます。「ネオンサインは,なぜ青い色のもあるの?」「アルゴンって何に使われているの?」もちろん,僕にもわからないことがたくさん。そして,気になって調べて行くうちに,ようやくはっきりしてきました。
 まだわからないこともありますが,僕と高校生のみなさんが疑問に思ったことをまとめておきたいと思いました。

仮説実験授業は解釈をしない

 仮説実験授業では実験が終わった後に,その解釈をすることはありません。それは予想や討論の段階で,考え方がはっきりするからです。でも,高校生の生徒さんの場合は,予想や討論で盛り上がることは,滅多にありませんので,実験が終わっても,「なんだかわからない」「結局,どれがあっていたの?」ということになることも多々ありました。その頃の僕は,
  たのしくて,わからない神秘的な授業
をしていたのかもしれません。
 その後僕は,実験の後に,押しつけにならないように注意しながら「まとめ」をするのが大変有効なのに気が付きました。仮説実験授業では,「授業書の通りにやればよい」のですが,授業書の内容に関連したことを生徒さんたちの興味に従って話してやることも,大変歓迎されることにも気が付きました。「テスト問題作り」をすると,授業書の内容よりも,そういった話題の方をテスト問題になることが多かったのです。
 これは,もともと授業書が科学入門教育として小学生などを対象として作られたためもあると思います。高校生のみなさんには,物足りないのです。ですから,中学生や高校生のみなさんには,《もしも原子が見えたなら》をするときにも,こんな話題を話してあげると良いと思うのです。くれぐれも押しつけにならないように。こんなことを「覚えろ!テストに出すぞ」といわれてはかないませんからね。

仮説実験授業の思想も話す

 関連して,僕は授業の時に,思想的なこともたくさん話します。「これはね,ガリレオ的な偉大な間違いなの。頭がいいから間違えるんだね」とか評価論や教師論についても話します。
 これは,それまでの教育の成果で,教師や授業というものに敵対心を持っている高校生のみなさんには,仮説実験授業を理解してもらう上で,大変有効でした。
 「そうだったんだ!」「やっと俺の出番が来た!」「わかるよ,わかる!」
そんな叫びまででるのです。
 仮説実験授業では,授業の運営法が細かく定められています。しかし,それは楽譜です。それをどう表現するかは,演奏家にかかっているのです。「演奏家の時代」いつからかそういわれています。

 

 では,思いつきのQ&Aコーナー

 怪しげなところもありますので,ご指摘をいただければ幸いです。

 

Q 「鉄腕アトム」のお兄さんや妹の名前を知っている?

A 妹はウラン,お兄さんはコバルトで,両方とも原子(元素)の名前です。原子兄弟なんですね。

 

Q 酸素の名前の由来は何?なんで赤で塗るの?

A
 昔の科学者は酸素を「酸の素」だと思って名付けたのです。今では,それが間違いであることがわかっています。酸素を赤く塗るのは,血の色からの発想です。酸素はみなさんの肺から,血液の中に取り入れられます。そのとき,みなさんの血は,真っ赤な色になるのです。血から酸素がなくなると,黒っぽい色になります。だから,怪我したときなど,出血した血の色を見て,真っ赤な血が出ていた場合は,酸素の含まれた血ということですから,すぐに止血する必要がありますし,危険な状態だということです。

 

Q 窒素の名前の由来と,その色の由来は?

A
 窒素だけでは,窒息してしまうので,窒素という名前が付けられました。ただし,窒素に毒性があるわけではなく,酸素がないから死んでしまうのですが。窒素は,空気の中に一番多い分子なので,空の色から色を採りました。

Q なんで原子には色がないの

A
 色が見えるのは,そのものに当たった光が反射して目にはいるからです。原子一つ一つは,大変小さいので,光は,原子に当たって反射することができません。それで色は見えないのです。もちろん,色だけでなく,目では見えないことになります。
 小さな微生物なども,小さくなればなるほど,透明になるでしょう。それと同じように,ものすごく小さいものには,色というものがないのです。

 

Q なんで大気には窒素の方が多いの

A
 窒素分子は,窒素原子同士がとても強く結びついていて壊れにくいのです。また酸素は,他のものとくっつきやすいため,大気の中には,窒素の方が多くなっているのです。
 窒素のそういった性質は,食品保存の目的で窒素を入れたりとして使われています。

 

Q 水素は何で白?

A
 実は水素原子は,この宇宙で一番小さい原子なのです。そこで軽そうな感じがする白にしました。水素の名前は,「水の素」ですね。
 水素はとても軽いので,浮かび上がる風船などにも使われています。また燃えることから,都市ガスの中にも入っています。

 

Q アルゴンのことを教えて

A
 名前は,「なまけもの」という意味だそうです。これは,アルゴンがほかのもとのくっつかない性質をさした言葉です。
 アルゴンは,製鉄工業で溶けた金属に酸素を吹き込んで,不純物を燃やすときの酸素を薄めるのに多量に使われています。白熱電球には,フィラメントと反応することなしに,熱だけ奪う働き(放熱しないとフィラメントがだめになってしまう)をするために,アルゴンが入れられています。(熱の伝導率は,同じ不活性気体のクリブトンの方がよいので,クリブトンが使われている電球もあります。)
 また,蛍光灯には,アルゴンと水銀蒸気を入れてあり,蛍光管に塗ってある蛍光体が発する光を補う働きをしています。
 紫色は,アルゴンの気体放電の色から採りました。蛍光灯のグローランプの紫色は,アルゴンの色だと思います。また,白熱電球を電子レンジに入れてチンしたときも,紫色の光が見えることがありますが,あれもアルゴンの色かもしれません。黄色と緑色のネオンサインには,ネオンとアルゴンが入れられています。

 

Q ネオンってネオンサインのこと?

A
 そうです。ネオンサインの赤色に入れられているのがネオンです。赤は,ネオンの気体放電の色なのです。赤は,酸素の色と決めてしまったので,盛り場にネオンサインが多いこともあって,ピンク色としました。
 ネオンランプには,ネオンがほんの少しだけ入れられています。それで赤くはならずに,オレンジっぽくなりますね。
 ネオンの名前は「新しいもの」という意味で,発見が遅かったのでしょう。

 

Q ヘリウムってなに?

A
 最初太陽の中に発見されたので,太陽という意味からヘリウムと名付けられました。飛行船やアドバルーンの中に入れられています。ヘリウムの色は,ヘリウムの気体放電の色です。
 水素やヘリウムは,軽いので動きが活発です。そういう気体を吸い込んでから声を出すと,声が高くなります。そういうおもちゃ「ダックボイス」に入れられています。でも,水素やヘリウムだけ吸うのは,酸欠の危険がありますからやめましょう。おもちゃの「ダックボイス」には,ちゃんと酸素も混ぜられています。
 このおもちゃは,もともと潜水病を防ぐために使われていた気体でした。潜水するときは水圧に負けないようにと,地上よりもたくさんの空気を圧力をかけて体に送り込みます。ところが体の中にたくさんの窒素が入ると,「窒素酔い」という症状が起こってしまいます。そこで,普通の大気のかわりに,酸素とヘリウムを混ぜたものを吸わせるというわけです。
 ヘリウムのかわりに,安価なアルゴンでも良いと思うのですが,なぜヘリウムなのかは,わかりません。また,純粋酸素でもいいような気もしますが・・・。

 

■追記 このあたりの詳しいことは,「潜水用にヘリウム混合気体を使うわけ」をご覧ください。謎が解明されました。(99.5.14)
 

Q 二酸化炭素って毒

A
 毒性はありません。でも,二酸化炭素が増えてくると,相対的に酸素が少なくなるので,気分が悪くなったり,酸欠になったりします。閉め切った部屋などで,ストーブを付けたりするときは,気を付けましょう。

 

Q 一酸化炭素はどうして体に悪いの

A
 みなさんが吸った酸素は,血液によって体中に運ばれます。一酸化炭素は,この仕組みを壊してしまうのです。そのため一酸化炭素をたくさん吸うと,体の中で酸素が足りなくなって死んでしまいます。

 

Q 二酸化硫黄はどうして体に悪いの

A
 二酸化硫黄は,水に溶けると亜硫酸になります。これは,硫酸という劇薬と同じようなものなので体に悪いのです。二酸化硫黄のことを「亜硫酸ガス」というのもこのためです。「亜」とは,「なにかがたりない」という感じの言葉です。二酸化硫黄は,硫酸と比べて酸素が一つ足りません。二酸化硫黄に酸素がくっつくと,硫酸ができます。
 大気中の二酸化硫黄が雨に溶けて落ちてきたときは,その雨は強い酸性になっています。そういった雨は,植物を枯らしたりして「酸性雨」と呼ばれています。

 

Q 硫黄は火山にもあるけど

A
 火山からも二酸化硫黄が発生します。それで火山ガスも毒なのです。硫黄は,それ自体に毒性はありません。二酸化硫黄は無色ですが,くさーい気体です。食べ物などが腐敗しても生じます。

 

Q 二酸化窒素って何?

A
 ふつうはくっつくことがない酸素と窒素が自動車や飛行機のエンジンの中で結びついてできるのが,一酸化窒素です。これは無色です。この一酸化窒素に空気中の酸素が結びついたものが,二酸化窒素です。これは赤褐色の気体です。

 

Q NOxって何?

A
 公害で問題になる酸化窒素の仲間をまとめて
NOxと書きます。その中の一つが二酸化窒素です。

 

 

Q どうして毒なの

A
 二酸化窒素の仲間は,水に溶けると硝酸というとても強い酸になります。あなたの目や肺で,強い酸に変わるのです。これも酸性雨の原因となる物質の一つです。

 

Q 光化学スモッグとは

A
 二酸化窒素による体に悪い霧のことを光化学スモッグといいます。自動車のエンジンで作られた一酸化炭素が二酸化窒素に変わるためには,酸素原子が必要です。太陽光のエネルギー(紫外線)で,酸素分子は壊されてオゾンとなります。オゾンができるときは酸素原子が放出されますから,それを一酸化窒素がとらえて二酸化窒素になるのです。このため,太陽の光が強く天気の良い日ほど,光化学スモッグができやすいことになります。
 東京などでは,「天気の良い日は光化学スモッグが出るので,外で遊んではいけない」といわれていたこともあったようです。

 

Q 自動車って困ったものですね

A
 自動車のエンジンから出る排気ガスには毒性があります。まず,エンジンの調子が悪いと不完全燃焼をして一酸化炭素を出します。では,エンジンが調子がよいといいのかというと,こんどは酸化窒素がたくさんできてしまいます。そこで市販されている車のエンジンは,わざとエンジンの調子を落として,酸化窒素の発生を防いでいます。一酸化炭素は,排気パイプから出す前に,酸素とくっつけて二酸化炭素にするようにしています。さらに,ガソリンを燃やしている限り,二酸化硫黄が出てきます。自動車の排気ガスを吸って死んだ人もけっこういます。自動車メーカーは,排気ガスを安全なものとするため,いろいろと工夫をしています。

 

■引用参考文献

 おもに以下の文献より知識を得てまとめました。『分子と人間』はおもしろかったです。また「潜水夫がなぜヘリウム混合気体を使うのか」を調べるのには苦労しました。まだあやしいことやわからないことがありますので,調べていきたいです。

P.W.ATKINS著 千原秀昭ほか訳 『分子と人間』 東京化学同人

久保亮五ほか編 『岩波 理化学辞典 第4版』 岩波書店

板倉聖宣「〈もしも原子が見えたなら〉解説」仮説実験授業研究会

板倉聖宣『原子とつきあう本』仮説社


 

 

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