■送電線探検隊

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◎送電線探検隊 送電線本数の謎

 高圧線を調べていくうちに,高圧線の電線の数が3の倍数であることに気がつきました。そしてふつうの電信柱の送電線の数も3本。サークルでこの話をしたら,みんな「電信柱の送電線の数など考えたこともない」といっていました。しかし,家庭のコンセントの数は2つ。この二つのうち電気が来ている(活線)のはひとつだけ,もうひとつはアースになっています。蛍検電ドライバーで調べますと,活線の方だけランプがつきます。
 送電線の数が3本なのは,発電機のせいです。発電所の発電機は三相交流という方式で発電していて,三つの電気の波が作られています。それで送電線は三本なのです。しかし,このことに疑問もあります。ふつうの家庭内の送電線は2本(単相交流)ですが,電気が来ているのは1本です。だから3つの電線に電気を流すのであれば,6本必要な気がします。調べてみると「三つの起電力の和は常にゼロだから,戻り線は必要ない」(天笠啓祐『電磁波』現代書館)とのことです。ちょっとよくわからないなぁ・・・。
 さて「3相で送られてきた電気は,柱上のトランスによって単相に変えられて,家庭に入ってきます。なお工場などでモーターを使うときなどは,三相交流の方が波が多く,効率が良くなるため,そのまま三相で用いるケースもあります。」(同書93ぺ)とのことで,電信柱から各家庭には2本の電線がいっています。それで電信柱などをいろいろと見たのですが,これがどうもあやしいのです。街路灯などへは,たしかに2本の電線がいっています。学校のような大きな建物には3本で行っています。しかも,各家庭へいっている電線は3本のものが圧倒的に多いのです(写真参照)。
 電柱のトランスをよく見てみると,3本の送電線のうち2本がトランスにつながっています。そのトランスから出てくる電線の数は2本のもあれば,3本のものもあり,さら4本のものもあるのです。トランスから単相になっているはずなのにこの3本というのはどうしてなのでしょうか。
 家の中の分電盤を調べてみると,赤・黒・白の三本の電線がやってきて,ブレーカーを通った後,漏電遮断機に入り,ここから灰と白の2本となっています。蛍検電ドライバーで通電を調べたところ,白の線はアースらしく光りませんでした。赤と黒(と灰)の線は光りますから電気が来ています。ブレーカーには「単3用」とあるのでこれは「単相交流3本線用」の意味と思われます。でも,なんで三本なんでしょうか。ブレーカーをよく見ると,白の線には「N」,黒「L1」,赤「L2」の印がありました。Nはニュートラル?Lはliveでしょうか?
 日本国内のすべての電力会社のホームページを見てみましたが,このことについての説明はありませんでした。ようし,調べるぞ。(98/10/29)

 福田努・相原良典『絵とき電力技術』オーム社
に,この答えを発見しました。「単相三線式」というのがあるのです。電気のきていない線を「中性線」といって,単相二線式の2本を組み合わせて,その戻り線を1本の中性線で共用しているというわけです。なぜわざわざこんなことをしているのかというと,1本の電線に流れる電流が少なくなるため電力の損失が少なくなるためだそうです。また活線2本それぞれと中性線の間の電圧は100Vですが,活線2本間の電圧は200Vになるので,屋内配線の200V化にすぐに対応できるというのも理由ではないかと思っています。同書によると,現在の単相三線式の施設率は50%程度で残りは単相二線式ですが,新築住宅では80%以上が三線式となっているそうです。
 柱上の変圧器から出てくる電線の数についても,変圧器の結線方法などにより変わってくるということがわかりました。さらに三相3線から2線になって電柱で配電されているものは,単相200Vらしいこともわかりました。また,電柱の中程に縦に3線が並んで配電されているのは,単相3線式の配電です。(98/11/05)


◎三相交流の送電線が3本で良い理由が解明

 「三つの起電力の和は常にゼロだから,戻り線は必要ない」(天笠啓祐『電磁波』現代書館)とかいわれても理解できなかったボクはよい本を見つけました。その名も・・・

 古川修文 『誰にもわかるやさしい電気の一般知識』 新星出版社 1998.11 

 少なくともボクにはわかりました。それによると以下のようなことになります。

 まずまったく等しい三つの負荷に電力を供給する三つの回路を考えます(左図)。○が電源で□が負荷,→が電流の流れる方向です。

 この三つの回路を右の図のように書き直すことにします。

 するとA-B間の3本の電線は,1本にまとめてしまうことが可能なことに気がつきます。

 このことは授業プラン《二つの回路の結合》をやるとよくわかります。




 そうしてA-B間の線を1本にまとめて書き直したのが左の図です。

 このA-B間の電線にはどんな電流が流れているかというと,電流はまったく流れてはいません。この電線には3つの回路の電流が合わさって流れています。ところが3本の電線に流れる電流は位相が3分の1ずつずれていて,3つの波形を合成するとゼロになってしまうからです。(この波形の説明は多くの本にありますので,参照してください。)


 電流が全く流れないのですから,電線は不要です。そこで電線をとってしまったのが,左の図です。

 実際には3つの電源はバラバラではなく,ひとつの三相交流発電機に含まれます。そのため発電機から出ている送電線の数を数えると・・・3本となっているわけです。この方式の送電を三相3線式というそうです。また,A-B間の電線を入れたままのものを三相4線式といってビルの屋内配線などに使われているそうです。A-B間の電線は「中性線」となります。これで,4本の送電線がある理由も判明してしまいました。

                                                            99/2/6

◎三相交流の利点

 『学研の図鑑 20 電気』 学習研究社 1975

にもわかりやすい説明がありました。ボクが要約してみると,以下の内容となります。

 単相交流では電圧が変化するため蛍光灯などは1秒間に100回以上の点滅を繰り返すことになります。またモーターであれば,回転力が脈打つことになってしまいます。しかし三相交流では電流がゼロになる瞬間はありません。そこで大型のエアコンやモーターに三相交流を使うと振動や騒音の少ないものができます。野球場などの水銀灯も三相交流を使って,ちらつきをなくしています。
 同様に交流から直流を取り出すときも,単相交流ではパルス的な直流になりますが,三相交流から直流を取り出せば,安定した直流を取り出すことができます。 

 三相交流は送電線本数が少なくても済むというほかにも,こんなにメリットがあったのですね。 99/2/7

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